“やさしい” 法律・用語解説

 


§1 公法と私法、一般法と特別法 〜 法律の分類

 実に多くの法律がありますが、憲法(すべての法律の基本となる法律)は別格として、その他の法律は、おおよそ「公法」と「私法」に分類することができます。


公法
公法は、国と国民(自然人としての個人のほか、法人としての会社も含みます)との関係を定めた法律です。刑法や各種の税法などです。
たとえば、Aさんが他の人を傷つけると、刑法に規定する傷害罪という罪を犯した(犯罪)ことになり、国によって処罰(刑罰を与える権利は国にしかありません)されます。
また、Aさんが働いて収入を得ると、所得税法に従ってその収入のうちからある一定額の税金を国に納めなければなりません。

私法
AさんとBさんがある日、Aさんのパソコンを10万円でBさんに売ることを約束したとすると、AさんとBさんの間に売買契約が成立したことになります。
契約が成立すると、その契約に従って、AさんはBさんにパソコンを引き渡さなければなりませんし、Bさんは代金として10万円を支払わなければなりません。
このような売買契約は民法に規定されています。
この例でお分かりのように、AさんとBさんの売買契約には国は関与していません。Aさんという一般市民とBさんという一般市民がそれぞれの自由な意思にもとづいて売買契約という法律関係に入ったわけです。
このように、市民社会での法律関係を規定したものが「私法」で、民法商法などがあります。

一般法特別法
さて、AさんはA株式会社で、BさんはBスーパーマーケットだとしましょう。
そしてA株式会社がBスーパーマーケットに食品を納入する契約を結んでいたとします。
これは、民法に規定する売買契約にあたるのですが、この場合はA株式会社もBスーパーマーケットも“商人”ですので、AB間の契約にもとづく法律関係はまず商法の規定が適用されます。
このような、民法と商法の関係を、「一般法」(私法の一般法である民法)と「特別法」(民法の特別法である商法)との関係といいます。
一般法が基本となるのですが、ある法律関係について適用される特別法がある場合で、その特別法の規定が一般法の規定と違う場合には、特別法が優先されることとなります。
このような特別法と一般法の関係についての他の例を少し挙げますと;
Aさんが賃貸アパートの大家さんで、Bさんが入居者
 借地借家法:民法の賃貸借契約に対する、家屋を賃貸借する場合に適用される特別法
AさんはB株式会社の従業員
 労働基準法:民法の雇傭契約に対する、労働契約についての特別法

法律の分類の仕方には、他に「実体法」と「手続法」というものもありますが、別の稿で触れることにします。

 written and up-loaded  May 10, 2002  N.Nishi

 

§2 「人」=ひと

法律的に「人」とは、権利義務の帰属主体である地位または資格(権利能力者)のことです。
権利を持ったり、義務を負ったりするのは人だけです。
人以外のものはすべて、広い意味での「物」にあたります。
当然ですが動物は人ではありませんので、法律的には物です。いくら家族同然に可愛がっているペットでも、それ自体が権利を持ったり、たとえばそのペットの犬が他人に噛み付いて怪我をさせても、犬自体が怪我をさせたことに対する責任を負ったりすることはありません。(飼い主の責任は問われますが、)
人は、生れると同時に権利能力を取得して、死亡によって権利能力の主体でなくなります。


法律でいう「人」には、生物学的な意味での人間、すなわち「自然人」と、もうひとつ「法人」が含まれます。
「法人」とは読んで字のごとく、法律の規定によって権利能力の主体とされているものです。
身近な存在として、株式会社や有限会社などの会社がありますが、これらは商法によって認められた法人です。
会社が、契約や取引の当事者となったり、財産を保有したり、従業員を雇用したり、時には裁判の原告や被告になったりするのは、会社自体が「人」として権利能力を有しているからです。


法人は、自然人と違って、法律の規定がなければ存在できないという、いわば合目的な存在です。
株式会社や有限会社はいわゆる商事会社で株主や社員ひとりひとりの利益を究極の目的とする法人ですが、一方、社会の利益という公益を目的とする社団や財団が民法で公益法人として認められています。
従来は、構成員の利益目的か、公益か、あるいはどちらでもないにしてもある特定の目的(特別法で規定)か、という比較的狭い範囲で限定的な目的でしか法人を設立できなかったのですが、平成14年1月1日から施行された「中間法人法」によって、構成員個人の利益目的でもないし公益目的でもない中間的な目的を広くカバーして法人を設立できるようになりました。

 

written and up-loaded Sept.7,2002 N.Nishi


§3
契約自由の原則 ・ 物権法定主義

契約は当事者が自由にその内容を定めることが出来ます。これを、「契約自由の原則」と呼びます。
民法には、売買、賃貸借、請負など、13種類の典型的な契約が規定されていますが、これらは、いわば契約の雛型とかサンプルのようなものです。したがって、実際の契約、あるいは契約書は、常にオーダーメイドとなります。
ある人が、他の一方の人に給付(=行為)を請求することが出来る権利が債権ですが、この債権は、不法行為(たとえば交通事故)による損害賠償請求権とかたちでも発生しますが、やはり契約が最もポピュラーな発生原因です。したがって、自由な契約にもとづいて発生した債権の内容は、結果的に多様なものとなります。(あるいは、債権債務関係の集まりが契約の内容であると考えれば、当然のことですが)
註)契約自由の制限と限界:公序良俗違反、信義則違反、消費者保護など


一方、人が物に対して直接に持つ権利が物権です。(債権:人→人 にたいして 物権:人→物)
物権は、民法をはじめとする法律で定められたもの以外は、当事者が合意で創設することは出来ません。(民法第175条)これを「物権法定主義」と呼びます。
つまり、○○権という独自の名前の、法律で定められた以外の内容の物権を、当事者の合意や意思で勝手につくることが出来ないわけです。
民法に規定されているものが主な物権で、以下のようなものがあります。
 
  所有権
 

 <用益物権と呼ばれるもの>
  地上権、永小作権(えいこさくけん)、地役権(ちえきけん)
 

 <担保物権と呼ばれるもの>
  留置権、先取特権(さきどりとっけん)、質権、抵当権
 
私達が、この「物権法定主義」を意識することはほとんどありませんが、不動産登記制度が成り立つ大きな前提になっています。
不動産は、読んで字のごとく“動かない物”ですので、その所在を公簿に記載することによって特定することができますし、そこに、法定された物権名と権利者を記入することによって、シンプルに不動産の権利関係を公示することができるわけです。
 
written and up-loaded Apr.19,2003 N.Nishi